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嶋田直子

私たち50人の出産体験記/シオン発行より


 その人は澄んだ目をしていて、左手の小さな小指にCommitment−絆−という指輪をはめていました。かわいい声はとてもエレガントで、エメラルドの雫のようです。

 5月の誕生石エメラルドは、古代ローマの人達が神の石と呼び、偶像の目に用いられました。

 彼女がため息をついた時、私はそーっと指輪を抜いて預かりました。

 その小さな人は、まったくキラキラしていて彼女の父親はひと目で ELLE(エル)と呼ぶ事に決めました。友人が仏蘭西語で空は“シエル”と耳打ちしてくれた時、私はうれしくなって宙返り、だってELLEは天使のように我が家に遊びに来てくれた、そう思えてならなかったからです。

 ELLEを受胎した時、私は毎日唄を唄っていました。中世の頃の教会音楽や世俗曲−ある方が私達の前に座って、彼の前世はアフリカの羊飼い、私はポーランドの山の上の教会の修道女さん、と言われました。神聖な旋律が響くと、心がしんとして、バラバラだったものが統合されたような時期でした。さっそく松が丘治療室の宮川先生に報告しました。

 先生は、私に体の中の声を聞かせれくれた人です。とても疲れて「ハイ」になっていた時、先生は静かに私の頭に両手を置いてくださいました。スーと涙が、耳の後ろを伝いました。妊娠中、体の調整に伺うと先生は何やらELLEと交信していたみたいです。

 彼は赤ちゃんの本をみては、絵を描いて冷蔵庫の扉にマグネットでペタペタとめてくれました。そしてイルカと一緒の出産を勧めてくれました。

 でも私は10年前、脳血栓とコウゲン病になった事が、不安でした。たくさんの薬の服用、副作用、長い時間がかかり、そんな私を支えてくれたもの−それは植物を育てることでした。私の中のやっかいな住人、不安やおそれ、落ちこみは、植物の持つ生命力、ハーブの香りに癒されました。

 特に「アロマセラピーの学校」での宮川先生の話は、とても自然でユニークでした。体の見方、子どもの話、ハーブと出産、私はメキメキ魅られてしまいました。

 そして水中出産、彼とふたりで宮川先生にお願いすることにしました。ELLEが私のお腹の中に住んでいた時、彼女はとりわけ私のIntuition−直感−と仲 良しでした。つまり一番初めにELLEを発見してくれた松尾先生夫妻や黄助産院の杉山先生、スタディハウスの壱伊先生と信頼できる方々のそばに行くことが出来たのですから……スタディハウスに通う時は少し早めに家を出て下北沢まで1時間歩きました。元気な妊婦さん達がバレリーナのように足を上げるのがうれしくって、先生の声にあわせて息をいっぱい吸いこむとELLEも大喜びで動きだします。

 おかげで今は毎日裸になって“夢のひよこ”(矢野顕子)にあわせて「ぴょこぴょこ赤ちゃん体操」が大好きです。スタディハウスの帰り道は自分の体が耕されたみたいに、スキッとさわやかになれました。

 私の仕事は声優(TVやRADIOのCMのナレーション)ですが、月に3・4回、家を出てから3時間くらいで終わってしまいます。出産ギリギリまで続けられたしELLEが産まれてからも、オッパイが張る頃帰ってこれるので、得をした気分になりました。彼はELLEとふたりきりになれる時を楽しみに、たまには、お茶でも飲んでゆっくりしてきたらと言いますが、私はおみやげを買って駆け出して帰ってきちゃいます。そして彼女の匂いをくんくん嗅いじゃいます。

 彼はフリーの映像作家なので8ミリで撮ったビデオをあれこれ編集したり、写真をバシバシ撮りまくっています。一日中ELLEと一緒の私は、彼女の無防備で健気ないろんな表情にみとれてしまって、いつもカメラのことを忘れてしまいます。声をたてて笑ったり、オッパイの時、耳の横の毛を指の間にはさんで、くるくるいじくっている姿をいとおしく感じます。

 産まれたての頃、フニャフニャのELLEを抱いてオッパイをあげた時、胸がキュンとしてせつなかったのに………私のお産−もう遠い昔のように思えます。出産前の5月15日、雨が少し降っていた日曜日、ちょうど神田祭と三社祭、京都の葵祭の重なった日でした。予定日を1日過ぎて健診に行った金曜の昼過ぎから、お腹が痛くなりました。母が助産院に行くのは、まだまだと言うので、あちこち散歩に出かけました。彼とふたり「フーよりくぅーの方がしっくりくるね」と言いながらくぅーくぅーいって、土曜の夜は花火までしてしまいました。

 彼は、宮川先生が「お産はその人の性格に似ている」と言ってらしたことを覚えていて、「貴女はゆっくりのんびり痛がってポロッと産んじゃうよ」と言います。午前8時30分お腹の中でパンと風船がわれたみたいに破水、9時に黄助産院に到着して2時間50分、ELLEに会えました。おかげで水中出産はおあづけです。3,352グラム、プクプクの女の子でした。男の子だとばかり思い込んでいた私達は、ずーっと蒼(そう)くんと呼んでいたので、びっくりです。胎盤が840グラムもあって、へその緒は太くて真珠色していたそうです。「昼生まれの子はパワーを持って生まれてくる」宮川先生の声が聞こえました。杉山先生が観音様のように神々しく見えました。

 私はラベンダー水をいただいて宙を見ていました。ピタッと私の脳の上にいる赤ちゃん、こんなに小さな生き物が、とっても大きくって、お腹にいたなんて、大笑いしたいほど、不思議でした。とってもお腹がすいて夕ごはんのお漬物はとびきりでした。だって私の足は「まるでゴーギャンの南国の女の足みたいにたくましいね」と彼が笑ったくらい、りっぱにむくんでいましたから………。

 夕食後、母と弟夫婦が会いに来てくれ、帰り際、母とふたりきりになった時、母からルビーのネックレスをもらいました。私は涙がポロポロでてきて、母のハートが見えました。母の事を書こうとすると、いつだってうまく書けたためしがありません。ちょっと悲しくなってしまうからかもしれません。小さい頃から、特別の日に、最高のプレゼントをしてくれた事、がんばってねという言葉は一度も言わないで育てられたこと、出産前腰痛の私に、つききりでミソ灸(みそとモグサを使ったお灸。腰痛、神経痛、冷え性に効果)をしてくれた事、「母と娘」出産前後、私は母と過ごせた事を大切に思います。

 みんなが帰って、おだんごのように寝ているELLEを見ていたら、風鈴のような母の声がしました。−女の子はいつも本物に触れさせて、ぜいたくに育てるの、ぜいたく……っていう意味、わかりますか。小さい時に愛情をいっぱいもらった子は、やさしく豊かに育つわよ−母がしてくれた事、私はどれだけの物をELLEに伝えてあげられるかわからないけど、象とキリンとピンクなカバの話や、チョコレートの空箱に詰められたアンテックのリボンの標本、パパがイーストヴィレッジの小さなお店で慎重に選んでくれたボジストーンは地球と一緒に生まれた石、アフリカできれいな地図と物々交換したボボの仮面、バービー2号、口びるの形をしたダリのマニキュアと口紅、ELLEが気に入れば、みんなELLEにあげる〜私は眠ってしまいました。

 夜中、ふと目をあけると、宮川先生が、ELLEの手を握っていました。先生も私も何もしゃべらないで、ただニコーッとだけしました。私はボーッとしていましたが、お産というと真っ先に思うシーンです。彼はと言えば、もうELLEにデレデレで、1日2回一緒にお風呂にはいる時なんか、帽子をかぶってしまうほどです。6才になったらジバンシーの赤いドレスを着たELLEと乾杯するとか、初めての旅はギリシャの島々かなとか、パスポートの申請に行って、サインはヘボン式のERUしか認められない事を知り、ELLEにする口実をあれこれ考え、外務省に電話したり。

 私が、実家から戻った時は、外国製の木のおもちゃが、どっさりありました。シャーリーテンプルのベビードレス、天井に映し出すウォルトディズニーの映写機。

 私は、びっくりして次の朝「星のズボン」という友人の詩を伝えました。

 −オモチャなんか持たずにしゃがんでごらん君に足りない一点が、やってくるから、海のしずく 星のぼうし 夢のすべり台 君が省略した窓を見つけて、遠い景色が力いっぱい抱きついてくるから−

 彼は、ちょっと淋しそうに宇宙人みたいに笑いました。でも平気です。ふたりで1年間世界を旅した時、何もなくてもいつのまにか新しい遊びを考えだし、私にいっぱい見せてくれた人ですから…ELLEだって指の間に糸くずをクッツケて、右手をかかげてひとり遊びに夢中、ギュッと握った手をパッと広げて、JOYという子ども達のダンスを見ているのかな。

 おまけにどこかの国の置いてけぼりにされた手品師のふりして、まだ小さいのに、貴女に春の緑色したコートを仕立ててくれました。うちポケットには金の糸でCourage−勇気− というネームが縫いつけられています。私にはStillness−静寂−というタ グ入りキャミソールと赤いサンダル。今日は久しぶりにお洒落をしてパパとふたりでデートです。

 ELLEが来てから毎日が新鮮で、サーカスを見に行ったみたいに、あっという間です。一番いい時期に授かった命、私を母にしてくださった壱伊先生、杉山先生、宮川先生、松尾先生、かあさん、そして夫に、心より感謝をこめて。

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